日刊OkiMag

沖縄の民話

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/<< 【連載】沖縄の民話 >>_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 皆さん、沖縄の子守り歌で「耳切り坊主」を知っているでしょうか。  今日は、この子守り歌の題材にもなっているお話です。

---------------------☆--------------------

■黒金座主   【那覇市】

 18世紀の初め、尚敬王の頃、波之上のある寺に秘法を修めた某上人という 住職がいました。身体が大きく、色が黒いので、世間からは、黒金座主と呼 ばれ、読経の声が大きく、説教も非常に上手で、また囲碁では、琉球でも一 二を争う名人であるばかりか、不思議な術を使う僧でもあると言われていま した。ある寺の住職を長年勤めた後は、隠居寺の一つの住職となり、年はとっていましたが、好きな囲碁などをして、思うままに楽しみながら暮らして いました。すると、この黒金座主のもとに那覇や首里の女たちがおしかけ、 さまざまな祈祷を頼みに来るようになりました。

 ところが、しばらくすると、世間に変な噂がたち始めました。  「隠居寺に行った娘は、みんな術をかけられていたずらされるよ。」  また、秘法を使い謀反を企てているとの噂もたちました。この噂は那覇の 町を取り締まる筑佐事の耳にも、王の耳にも入るようになりました。 しかし、声望が厚い座主にうかつに手など出すことはできませんでした。 そこで、王は、王城に近い首里の竜潭池のほとりに屋敷を構え、人々から その屋敷を大村御殿(うふむらうどぅん)と呼ばれる、弟の北谷王子を呼び、 黒金座主を調べるように命じました。北谷王子は、文武両道に優れ、囲碁では、薩摩にも聞こえた名手でした。

 北谷王子は、考えた末に、自分の妻を呼び、例の隠居寺に行って、黒金座 主に祈祷を願ってくるように言いつけ、筑佐事にその後をつけさせました。 筑佐事が寺の門の前で見ていると、北谷王子の妻が隠居寺に入ると間もな く、寺の上に黒雲がかかり、大雨が降ってきました。その雨が上がった後、 出て来た北谷王子の妻は、衣服や髪を乱した姿でした。  世間の噂通り、黒金座主は、人を護るための秘法をこともあろうに醜い肉 欲を満たすために使っていることは、もはや明らかでした。 唇を噛んで意を決した北谷王子は、一通の手紙を隠居寺に持たせ、黒金座 主を囲碁に誘いました。黒金座主からは、すぐに囲碁の勝負に応じるという 返事が届きました。

 隠居寺を訪れた北谷王子の顔色を見て、黒金座主は、これはただ事ではな いと知ったが、平然と王子を迎えました。「ただの囲碁ではつまらない。 さぁ、何か賭けてみないか。私が負けたらこの武士の誇りのかたかしらを剃 り落とそう。お主が負けたら、どうするかね。」と、北谷王子は、座主を賭 碁に誘いました。「さて、私は何を落としましょう。よし、この大きな耳で もあげましょうかね。」 対局は開始されました。

 二人の碁石を置く手に気合が込められていました。しかし、王命を受けて 必死の思いで打ち込む北谷王子の気迫に押されてか、次第に黒金座主の敗色 が濃くなっていった時、どうしたことか北谷王子は、急に眠気を催して、目 を開けているのも難しくなりました。 その北谷王子の朦朧(もうろう)とした耳に、黒金座主がにやりと笑いなが ら、すばやく石をごまかして置き換える音がかすかに響きました。  襲ってくる睡魔と戦う北谷王子は、はっとして気を取り戻しました。

 「待て!勝負あった。約束通りその耳をいただこう。」王子は、言葉も終 わらないうちに、刀を振り下ろし、座主の一方の耳を切り落としました。  更に、慌てふためく座主めがけて、もう一方の耳も切り落とそうと斬りつ けました。勢い余った刀は、座主の首筋にまで、深々と斬りつけられていま した。黒金座主は、血まみれになって苦しみもがきながら、呻くようにこう 言い残しました。「この恨みはきっと、きっとはらしてやる。」

 この黒金座主の亡霊は、それから毎夜大村御殿に姿を見せるようになりま した。そして、北谷王子の大村御殿に誕生した男子は、幾日もせずに、その 幼い命の灯を消していきました。次に生まれた男子も、また次に生まれた男 子も、たちまち早世しました。北谷王子は、跡取りの相次ぐ突然の死に、黒 金座主の最後の言葉を思い出し、占ってもらうと、果たして怨霊の祟りだと いうことでした。

 しばらくして、北谷王子の家にまた子供が生まれました。  大村御殿の人々は首里に響き渡るほどの大声で触れ回りました。  「北谷家に女の子が生まれたぞ。大女(うふいなぐ)だよ。」  その子はすくすくと育ち、13歳の祝いの日を迎えた時になって、初めて男 の子ということが世間に知らされました。その後はその子に何の災いもなく おかげで北谷家は絶えることなく栄えていったと言います。  それで、沖縄では男の子が生まれると、悪霊から嬰児を守るようにという ことで、「大女(うふいなぐ)!」と大きな声で叫ぶようになったと言います。

 そして、この黒金座主の亡霊については、いつしか次のような子守り歌と して歌われるようになったということです。

 『大村御殿(うふむらうどぅん)ぬ 門(じょう)なかい 耳切り(みみちり)   坊主(ぼうじ)ぬ立っちょんど    幾人幾人(いくたい、いくたい) 立っちょがや 三人(みちゃい)四人 (ゆったい) 立っちょんど   鎌(いらな)小刀(しーぐ)ん むっちょんど 泣ちゅる童(わらべー)   耳グスグス   ヘイヨー ヘイヨー 泣かんど ヘイヨー ヘイヨー 泣かんど』

 この子守り歌の意味は、だいたい下記のようです。

 『大村御殿の門の中あたりに、耳切り坊主が立っているよ。   何人、何人、立っているのかな? 三人、四人立っているよ。   鎌と小刀も持っているよ。泣いている童は、耳グスグス(耳を切られるよ!)   ヘイヨー、ヘイヨー、泣くなよ。ヘイヨー、ヘイヨー、泣くなよ。』

☆★☆★☆★☆★☆★☆★≪ お願いはじまり ≫★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
当民話は、沖縄国際大学文学部 遠藤庄治教授のご厚意により掲載させて頂いてお
ります。その転載・複写、一部引用等の二次利用は、教育目的、学術的な研究目的、
啓蒙的な意義のある活動(営利を目的としないもの) において自由に可能です。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★≪ お願いおわり ≫★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

沖縄の民話を許可なく無断転載することを禁じます。
Copyright (C) 1998 沖縄まが人


≪戻る